文房四宝の1つに墨がある。古くは殷の甲骨文字の時代(約4000年前)にさかのぼり、刻字の前に原稿のような墨書もあったと言われている。また早くに「墨丸」という言葉もあった。日本おいては仏教の伝来と共に奈良時代から製造され始めたと言われている。
現在、製墨の産地は限られ奈良・鈴鹿が代表的である。鈴鹿墨の発祥は延暦年間(平安時代)とされている。墨の原料は油煙(菜種)、松煙(松脂)を始め多種である。なぜ鈴鹿で製墨業がなされたかは、松煙(紀州産)の原料が近くにあり、また鈴鹿山脈から湧き出る良水が製墨に適し手に入りやすかったこと、更に「鈴鹿おろし」の寒風が適していた。
墨造りは早朝四時からスタートし、煤にまみれて厳しい作業である。墨色は原料によって微妙に違い、油煙墨は黒茶であり松煙墨は薄青く出る。また椿や胡麻は他よりも墨色に光沢があり、仮名に適している。そして鈴鹿墨の彩墨も近年大いに注目されている。
昭和の時代、私の記憶では鈴鹿には老舗「玉泉堂」を筆頭に十軒近くの製造元があった。しかし時代とともに衰退し、現在はついに「進誠堂」一軒となってしまった。書道界においても墨液の便利さもあるが、固形墨の良さも見直すべき時代でもある。(鈴峰)